2つのコミックは、基本的に違うエピソードを扱うようにしていた。
だが、物語上、どうしても重要なものは、両誌で扱わざるを得ない。
これまで1話の一部だけが、共通だったが、
このエピソードでは、まるごと同じ話を書いている。(細部は違う)
理由は、両誌ともに「どうやって地上に降りたのか」を説明する必要があったからだ。
※実はゴールドフレームに関しては、「R」では重要視していなかった。
敵として、ルキーニがすでに存在していたからだ。
・ときた版(無印)
冒頭、ルキーニと劾のシーンで始まる。
ルキーニが、はっきりと登場するのは、これが最初だ。
(これまでも、ちらちらは出てた)
このキャラに興味をもってもらえれば、ガンダムエースの読者に少年エースを読んでもらえるかもしれないと、考えてのシーンだ。
なぜ、劾に会いに来たかは、少年エースを読むと分かる。
・両誌
ロウが、ゴールドフレームの存在にニュータイプ的感覚で気づくシーン。
実は、ロウの初期設定には「メカに関してはニュータイプ的直感力が働く」という記述があり、それを生かした。
少し微妙な問題もあるので、シナリオに盛り込む前にサンライズに確認をとった。
「これぐらいなら、アリでしょう」という返事でオッケーに。
・両誌
ゴールドフレームが装備しているのは、デュエルのバズーカだ。
実はサンライズから連絡があり、
「初期設定のみで本編で使用する機会のないデュエルのバズーカが、おもちゃに付属することになった。アストレイで出してくれないか?」
とのことだった。
そこで、へリオポリス崩壊時に、ゴールドがデュエル用の装備を持ち出したことにした。(このエピソードはのちに電撃で詳しく描くことになる)
・戸田版(R)
ガンダムエースでは、なぜゴールドに襲われたのか、その理由がない。
戸田版では、「ザフト基地へコロニーの外壁を落とし、その間に自分が地上へ降りるため」という説明が出てくる。
理由がないガンダムエースは、まずルキーニが「何かある」と話題をふるので成立している。また、これ以後、ゴールドとの因縁が深まり、そこで対立関係が見えてくることで、この段階での具体的な理由がなくても成立するようにしている。
コロニーの外壁のデザインは、戸田先生が担当した。
戸田先生は、これに凝りすぎて、原稿の作業が遅れてしまうことになった。
「ときた先生も使う設定だから」というのが、まじめな戸田先生らしい理由だ。
・両誌
ホームのクレーンで、ゴールドを殴るのは、私がせひやりたかったシーン。
世にも珍しい宇宙船による格闘戦のシーンだ。
最後に「ホームはこんなことも出来るよ」と、読者に教えたかったのだ。
実は、戸田版では、このシーンはスペースの都合で、カットになりそうだったが、
なんとか入れ込むことが出来た。
・両誌
最後の1ページは、両誌ともに「朝日」「レッドフレーム」「ロウ」という共通のイメージで書いてもらっている。
見比べると、両誌の作品の違いを、読み取ることが出来ておもしろい。
アストレイ: 2006年5月アーカイブ
いきなり「海鮮ジョンゴル鍋」ですよ。
もちろん、シナリオにはありません。
戸田さんのアイデアです。
もうこのころになると、戸田流のノリが、私にとって快感だったので、スルーしました。読者も、同じように喜んでいてくれることを願いつつ。
まさか、引いてませんでしたよね?
※ちなみに、この鍋については、
ちゃんとサンライズに確認して了承とってます。
さすがに食物資源のとぼしいプラントで「海鮮」なので。
この話の基本は、「名所めぐり」だ。
外伝であるアストレイシリーズは、なるべく本編に登場した名所をめぐるようにしていた。
そうすることで、世界観が共通であることが明確になりやすい。
今回は、「本当の名所」だが、「事件があった場所」なども、名所として考えていいだろう。
そう考えると、ときた版でキラを助ける所は、究極の名所と言える。
今回は、ナチュラルのロウたちが、
プラントの中に入るというウルトラCな名所巡りだ。
もともと、「エヴィデンス01は、プラント内では、観光地になっている」。
というサンライズから聞いた設定を描くために書いたシナリオだ。
シナリオ段階では、01の周りにおみやげモノ屋の屋台などが出ている風に書いたが(それが戸田風かと思ってそうした)、戸田先生に否定されてなくなってしまった。
まだ、このころは戸田流がよく分かってなかったという一例だ。
ファーストコーディネイターのジョージ・グレンを崇拝する「GG友の会」は、プロットでは、宗教団体として描かれていた。
だが、作品に宗教を持ち込まないというガンダムの基本方針があり、
「友の会」に落ち着くこととなった。
それにしても戸田先生の描かれたモンドのデザインには、びっくりした。
頭にGGと入れ墨している。
かなりのインパクトだ。
ロウがテロリストを殴るシーンの作画は、演出として、ああなっているのだが、読者にそれが伝わるのか、微妙な所だ。
伝わってます?
モビルスーツによる戦闘は、具体的に描かず、イメージシーンと、ナレーションによる処理になっている。
これも戸田先生からの要望だった。
ここでは、先に殴るシーンがあるので、後の戦闘は細かく描く必要はないという考えだ。
「GG友の会」の秘宝「GGユニット」は、
ときた版にも登場する。
デザインは、戸田先生に先行して進めてもらい、ときた版で合わせた。
次回は、大気圏突入&ゴールドとの戦い。
これは、ときた版とまったく同じ話が、はじめて出てくる実験作になる。
(1話をのぞく)
ときた版と比較しながら、紹介したいと思う。
「R」で、もっとも気に入っている話。
もともとは、戸田先生から
「ロウというキャラを描くために、
普通の人とは違う価値観を示す話が欲しい。
たとえば、何かを得るためにブラックホールに飛び込んでしまう話」
というオーダーを受けたのが、きっかけ。
さすがにブラックホールに入ったらロウでも戻ってこれないので、
爆発寸前の施設に、ただのデータを取りに行く話となった。
この普通の人にとっては、「ただのデータ」が、
ロウの考えでは「その人の思いがこもった唯一無二のもの」
となっている所がポイント。
ロウは、「モノが持つ使命」を大切にしようとしている。
すべてのモノは、換えがきかない。
だから、彼は、個を極限まで大切にするジャンク屋なのだ。
それを明確化するためには、最初に「人間に対して冷たい」ともとれる対応をさせ、
実は「モノ」と「人間」、どちらの使命も、同等に扱っていることを明かして、ロウというキャラの考えを示している。
この話では、敵は、特殊な存在にならないように、
ルキーニにそそのかされた女性ハーナが出てくる。
(普通の敵というのが、敵としては特殊だが)
普通の人が敵となった時、よりロウの行動が明確化する。
ハーナの名前は「花」からとっている。
当時、好きだった女優さんが自殺してしまった。
その人の私が好きだった役名からとった。
最初にザフトが実験しているのは、
モビルスーツ用の大出力ビームの実験。
おそらく、Nジャマーキャンセラーに関係している。
シナリオ段階で、どんな実験が可能なのかを、ぬえ森田さんと話してきめた。
ただ、この段階では、森田さんにも明確にキャンセラーのビジョンはなかった。
プロフェッサーが、駄菓子の「ねるね」を食べている。
「なぜ、ねるねを?」
と戸田先生に聞いたら「気づいてくれましたか? わざとやってみました」
との返事。
よく理由は分からなかったが、まあ戸田版の雰囲気ということで了承。
以後も、同様の「ひっかかり」のあるアイテムが画面に出てくることとなる。
ラストシーンで、爆発の中に現れるレッドフレームは、
8が操縦している。
8の操縦は、オート(人を介さない)ということで、
世界観的な問題をはらむのだが、
「単純に歩いてきただけ」ということで、
サンライズのチェックをパスした。
※ときた版の1話でも、8がライフルを撃つシーンがある。
フルオートは問題だが、単純な作業なら、現代のテクノロジーでも簡単に出来る。
逆にコズミックイラの時代にそれが、出来ない方がおかしなことになる。
ただ、どこまでがよくて、どこまでダメなのかは、理屈ではなく、世界観の話になる。
ここの見極めを間違えると、読者が混乱することとなってしまう。
この話は、冒頭に書いたように、私の大のお気に入りだ。
だが、アンケートの順位はさんざんだった。
まあ、ロボットが活躍しないのだから、しょうがない。
(ときた版3話と同様の現象だ。作者の気持ちとアンケートは一致しない)
この話が少年エースに掲載された後、
ときた先生から「いい話でした」と言って頂けたのが、とてもうれしかった。