スタジオオルフェでは、数年前、某有名大学の文化祭のイベントに出たことがある。
アニメ関係者をあつめて、トークショーをしたのだ。
大学のアニメ研究会が、企画を持ち込んできたのだ。
この某有名大学が、かなりの大学で、
『ドラゴン桜』がない時代に学生だった私には、ぜったい入れないような学校だ。
「高卒と、大学中退の学歴者の集団であるオルフェとしては、
この大学からの挑戦は受けざるを得まい。
いや、『あんたたち、アニメなんかに構ってないで、日本の将来のために勉強しろ』と言うためにも、ぜひ乗り込もう」
ということで引き受けた。
私も社長なので、参加した。
まあ、内容がどうだったかは、ここでは重要でないのでパスする。
トークショーが終わり、社員たちやゲストはみんな打ち上げにいくことになった。
私は、仕事があったので、そのまま直帰することにした。
イベント会場を出て、まずトイレによった。
小で用をたしていると、突然後ろから声を掛けられた。
「スタジオオルフェの千葉社長ですよね?」
とまどう私。
だって、まさかこんな瞬間に声をかけられるなんて、夢にも思ってない。
生まれて初めてのことだ。
よほどの緊急事態か!?
「会場の裏で隠れて酒を飲んで、泥酔した社員が、暴れたか?」
一瞬、悪い予感が走る。
私は、なんとか、膀胱力(?)を全開にして、通常の三倍の早さで用を終わらせた。
そして、声を掛けてきた人の方を振り向くと、
「ボク、オルフェに入りたいんです」
と言ってきた。
そのセリフを聞いて、全身の力が抜けました。
この人には、「常識がない人は、当社では必要ありません」
と断った。
さて、大学を出て、帰りの電車に乗り込んだ私。
大学から離れ、かなり安心しはじめていた。
頭の中では、締め切りが目の前(というか、ちょっと過ぎてしまった)仕事のことで考えをめぐらせていた。
ふと、視線を反対側のイスに座った人に向けると、
なんと、その人は当社の社員が執筆した小説を手にして居るではないか!
あまりに不自然。
偶然の可能性は、かなり低い。
その本は、特に新刊という訳ではないのだ。
私は、見なかったことにした。
だが、私が、視線を外したことに気づいたその人は、
これ見よがしに、「おもしれぇ、これおもしれぇ」などと言い出す始末。
私は、はじめて「衝動殺人が起こる理由」を身をもって体験したが、
こんなヤツのために人生棒に振るのはいやだったので、我慢した。
やがて、電車は私の降りる駅に到着してしまった。
ヤツのターゲットが私なのは、ほぼ間違いない。
「降りて、自宅の最寄り駅を知られるのは危険か?」
とも思ったが、
敵が、話しかけてくるなどの積極的戦術をとってこなかったので、
ここは、電車を降ることにした。
(降りれば、ヤツと別れられるかもしれないという、甘い誘惑に負けたのだ)
だが、私が電車を降りると、ヤツも降りてきてしまった。
そして、「スタジオオルフェの千葉社長ですよね?」
と、話しかけてきた。
「そうですが」
「ボク、アニメに詳しんです」
「へ〜、で?」
「アニメのことなら、誰にも負けません」
「そうなんだ。で?」
「ですから……」
「用がないなら、急いでますので」
私は、その場を走り去ってしまった。
ヤツは、追ってくる気配はなかったが、まっすぐ家に帰るのは危険なので、
30分ほど遠回りして帰った。
さらに、家に帰ってからメールをチェックすると、
一度だけバイトで使って、あまりに使えないので、クビにした男から
メールが来ていた。
「今日、私も、オルフェのトークショーを拝見させていただきました。
客席から手を振ったんですが、気づきませんでしたか?
トークの内容で言われていた、●●と●●は、ダメでしょう。
ところで、あれから時間もたち、私もレベルアップしました。
もう一度、作品を見て頂けませんか?
オルフェで使って頂けなくても、もう少しレベルの低い会社を紹介していただければ、幸いです」
あまりの内容に返事をする気力もなく、
ましてや「締め切りをやや過ぎた仕事」をやる気力も奪われていた。
結局、その日は、ふて寝してしまった。
業界で働く: 2006年4月アーカイブ
サンライズから原稿のチェック作業が来た。
いろんな本でアストレイやMSVを扱ってくれるのは、非常にありがたいことだ。
だけどね〜。
愚痴りたくないけど、編集部で最低限のチェックをしてからサンライズに送って欲しいよね。
ごくごく普通に公開されてる資料を見れば分かることは間違えないようにしようよ。
頼むからさ〜。
あと、創作はやめて欲しい。
固有名詞とか、勝手に作らないように。
以上、愚痴でした。
このチェック作業をしていて思い出したことがある。
昔、私が業界に入ったころは、電算写植というのがなくて、
文字はすべて1文字づつ、写植文字を拾っていたのだ。
※「銀河鉄道の夜」のジョバンニが活版所のアルバイトでやっている作業です。
えっ、わからない?
つまり文字の印が1つ1つあって、それを文章どおりに探しだし、組み上げて、大きな印刷用の印を作る作業が必要だったのです。
ちなみに今はワープロデータから、印が自動で作られるので、この作業はありません。(これが電算写植)
※余談
この電算写植の技術の導入により本の製作にかかる人件費が劇的に下がった。
おかげで、書籍の値段は物価の変動に対して安定している。
それと雑誌の数が増えたのも、安価に出せるようになったからだ。
業界で、それをリアルタイムで目にした私は、技術革新に感動したのを憶えている。
昔、攻略本でお世話になっていた写植屋さんがあった。
そのころの攻略本は、子供向けだったので、総ルビ(すべての漢字にヒラガナがついてる)が当たり前だった。
今でも、漫画には付いてることが多い。
作家は原稿を書いた後、読みにくい当て字などには、自分でルビを付ける。
だが、普通に読める漢字は、写植屋さん任せにして、作家はルビを付けないのが通例だった。
そのため、「常識」だと思った漢字にとんでもないルビが付いてきたりすることが、たま〜にあった。
まあ、このぐらいは、ご愛敬なのだが……
ある時のこと、私は騎士ガンダムの武器にルビを付けなかった。
なぜなら「破壊の鉄球(はかいのてっきゅう)」など、ごく当たり前の読み方だったからだ。
しかし、武者ガンダムの仕事で「超種子島」に「スーパーライフル」などというルビ付けに慣れていた写植屋さんは、「破壊の鉄球」に「スーパー・デンジャラス・ハンマー」などと、勝手に創作してルビを付けてきたのだ。
あがってきた写植をチェックしていた私も、あまりの違和感のなさに最初は気づかなかった。
最終的には、気づいたからよかったが、あまり「良くできた創作」を写植屋さんにやられると、かえって困るものだ。
ちなみに、この写植屋さんには、助けられたこともある。
私は「アムロ」とタイプすべき所を「アロム」とタイプして入稿してしまったことがあった。
しかし、すっかりガンダムに詳しくなっていたこの写植屋さんは、何事もなかったかのように「アムロ」に訂正して写植を作ってきてくれたのだ。