タイトルは「無印」だが、実質は傭兵部隊を主人公としている。
つまり「アストレイB」の小説版だ。
文庫のあとがきにも書いたが、最初から小説を傭兵で進める予定ではなかった。
打ち合わせの時にバンダイの方から
「ガンダムエースがジャンク屋視点なので、
小説は傭兵視点にしては?」
と、提案され、そのようになったのだ。
この1話には、かなり苦労させられた。
普通に考えれば、一度作った物語の焼き直しなので、簡単そうに思えるだろう。
だが、実際は違う。
私は、ゲームのノベライズなどで、自分が別の目的で書いたシナリオを、もう一度構成し直す作業を何度もしたことがあった。
そのどれもが苦労していたのだ。
今回も予想通りだった。
傭兵視点にしたとたんに物語のほころびが見えてしまったのだ。
ガンダムエース版で、サーペントテールは、アストレイの破壊、及び目撃者の抹殺のためにへリオポリスを訪れている。
そして任務中に、依頼者であるオーブの裏切りに会う。
だが、これは、おかしい。
ガンダムエースでは、「劾たちもアストレイを見てしまった者だから」という理由で襲われたことになっているが、それならそもそも依頼などしなければ良いのだ。
※うかつなことに、ガンダムエースのシナリオを書いた時点では気づかなかった。
結局、物語では「劾に依頼したオーブの人物は失脚し、別のオーブが襲ってきた」
という解決策をとった。
このことにより、オーブのMS開発には積極派と消極派がいることになり、
その後のアスハ家、サハク家を中心とする五大氏族の勢力争いにも繋がっていくことになる。
(そのプロローグは、私のミスから生まれた訳だ)
この1話では、サーペントテールのメンバーが固定していないような記述になっている。
実は、サーペントテールは最初は、「スパイ大作戦」のようにある程度メンバーは決まっていても、さらに任務に合わせてメンバーが数人加わる。というような形を考えていたからだ。
※「スパイ大作戦」では、見慣れないメンバーは大抵、その任務中に死ぬ。
(頭の中には「旧ルパン三世」のスタイルもあった。
今では、次元、五右衛門など固定メンバーだが、
「旧ルパン」では、仕事に合わせ他にもメンバーを入れる構成だった。
結局、イメージした「ルパン」と同じく、キャラが確立すると同時に
メンバーは固定化していくことになった)
文庫ではプロローグとなっている部分は、連載時は1話の冒頭だった。
ここで「コズミック・イラ」と書いたら、
編集部から「意味が分からないので、日本語訳を付けて欲しい」と要請を受けた。
たしかにファーストガンダムの場合なら、「宇宙世紀」という日本語記述になっており、わかりやすい。
そこで、サンライズと相談し、「統一歴」という日本訳を付けた。
他ではやっていないことだと思うので、記しておく。
文庫の緒方さんの挿絵をよく見て頂くと、
ガンダムの有名なイラストと同じ構図になっている。
これは、緒方さんが、ガンダムへのオマージュとしておこなったことだ。
1話は、「傭兵らしさ」を全面に出すために、
私の中では、一番堅い文体で書いている。
(ハードボイルドを目指していた訳だ)
編集部では、「問題ありません」と言われ、読者のアンケートでも特に指摘はなかったが(作家にとって、おそろしいことにアンケート項目に「文体」というのがあったのだ!)、私の周りの人間からは「漢字が多すぎる」「読みにくい」などの指摘を山のように受けた。
また、スニーカーの他の作家の作品と比べても、かなり堅かった。
そこで、2話以降は、文体を若干柔らかくしていくようにしている。
このハードボイルド風のためか、今読み返すと、
劾が皮肉屋で、たまに静かに「ニヤリ」と笑うキャラになっている。
今の劾は、まったく笑わないので、年月によるキャラの変化を感じる。