昨日のつづき。
ガンダムエース版のメインストーリーとなるのは、リーアムとその兄シニストの話。
両者は双子でありながら、片方はコーディネイターであり、片方はナチュラルだ。
(1つの受精卵が2つに分裂した所で、片方にのみ、コーディネイトを施した)
SEED世界の人種問題は、「戦争」という形で表現されている。
そこで、外伝では「和平」「共存」という形からのアプローチをしてみた。
兄妹の別れのシーンは、かなりの完成度だと思う。
単行本1巻161ページ2コマ目。
「そうか」
「わかった」
これだけの短いシニストのセリフなのだが、この吹き出しが2つに分けられていることの重要性。
その間のすばらしさ。
この間に言葉にはならないシニストの何百もの思いがつまっている。
私がシナリオで「こうしてください」と指示したのではない。
ときた先生がシナリオを読み解いてくださった結果だ。
先生の漫画家としての技術力の高さが見えるシーンだ。
まさに漫画で時間(ま)を支配出来ることを立証したシーンだと思う。
ラクスの歌詞を載せるのも、ときた先生のアイデアだ。
この曲はアニメ用の曲でありながら、まさにこの物語のために作られたような曲だった。
(完全に偶然です)
「この歌詞見てくださいよ! ぴったりですよ」と、ときた先生から、興奮した連絡をもらったのを憶えている。
ラストで、戦闘に向かうリーアムが長い髪をまとめ上げるのは、最初のキャラ設定から用意されていたもの。
リーアムは、ほとんど戦わないので、結局、ここでしか使用していない。
戦闘シーンを直接描かずに終えるのは、最初から狙ってそうした。
この物語で戦闘は重要ではないからだ。余韻を大切にするため描かないことにしたのだ。
当初の私のシナリオでは、ロウは、ほとんど活躍していなかった。
しかし、編集部の担当からロウがもっと活躍すべきとの指摘を受け、担当とときた先生のアイデアにより、敵艦隊の引きつけ役をロウが担うシーンが生まれた。
このシーンがあると無いでは大違いだ。
作品が、多くのスタッフに支えられている、よい見本だ。
この物語は、それぞれの人物の考え、生き方にスポットを当てている。
メカが登場しない訳ではないが、戦闘はないし、派手なシーンもない。
だが、物語には絶対の自信をもっていた。
当然ながら、アンケートでも、高順位を期待していたのだが……結果はさんざんだった。
今にして思えば、この(一見)地味な物語と、(考えないと分からない)複雑な物語構成で、一位が取れる訳がない。
※さらに言い訳するなら、雑誌の人気順位は、早めに集計されるため、瞬時におもしろさが分かる作品が上位にくるのは必然なのだ。
アンケート順位の悪さにかなり落ち込んだ私だったが、それでも作品のおもしろさの自信は揺るがなかった。
「どんな時でも、エンターテーメントを忘れてはいけない」
それは、以後の作品作りの教訓となった。
この物語にまつわる話には、後日談がある。
ご存じのとおり、アストレイはプラモーションとしてアニメ化された。
実は、この前にも同じスタッフで、もう少しボリュームのあるアニメ化の企画もあった。
その時、監督が「ぜひ、やりたい」と言われたのが、この無印の3話だったのだ。
それ以外でも、「アストレイ、良いですね」と言ってくださる方の多くが、この3話を支持してくださる。
最初にも書いたが、この3話は、数々の思い入れを込めて作った。
自信もあった。
それだけに、どんな話よりも、この3話を褒められることは、作者にとって単純にうれしい。