一応、作家でありながら会社の社長でもある私は,
社員の仕事に関する契約書に目を通す。
(だいぶ溜めてしまって、よく怒られる)
相手は「大手」と言われる所も多く、そんな所の契約書なら、
安心して印を押せそうだが、そう簡単にはいかない。
以下、私が経験した例を。
・著作人格権の譲渡
これが、かなり多い。
大手でも、いまだに記載している所がある。
著作人格権とは、簡単に言うと、「私が書きました」ということで、
著作財産権(作品で商売します)と違い、譲渡が法律で禁止されている。
法律で禁止されているので、もし契約書に記載されていても、
裁判になれば契約自体が無効になると思われる。
相手としては、買い取りの作品などでは、「全部の権利」というつもりで記載しているのだろうが、物事はそんなに簡単ではない。
・オリジナリティの保証
他者の著作物の権利を侵害していないことを契約書で保証しろと言う。
これは、基本的には正しい。
だが、オルフェでは以下の例外を作ってもらっている。
「原作が存在し、原作そのものが他者の著作を侵害している場合」
「製作発注者の指示にそった結果、他者の著作を侵害した場合」
この条項を足しておかないと、原作のミスや発注者の意見を取り入れたことで、
こちらが責任を負わされることになりかねない。
・指定裁判所
もし契約書に記載された以外のことで紛争となった場合のために、
大抵、「そうなったらここで争います」という裁判所が指定されている。
普通は、東京。
だが、ここで注意しておかないと、海外の裁判所が指定されていることが、たま〜にあるのだ。(私はオーストラリアを見たことがある)
海外の裁判所では、行くのに時間もお金もかかる。その上、当事者への出頭命令が届かないこともあるようだ。
もし裁判当日、その場にいないと、その裁判は無条件で負けになる。
・見本、広告の除外
大抵の商品は、商品数×印税率でお金が支払われる。
だが、作った商品がすべて売られるかと言うと、そうではなく、
見本として関係者に配られたり、広告(宣伝)のために、
関係媒体に配られたりする。
この数が明確になっていない契約書は要注意。
明確でも、数が異常に多いのも問題だ。
一割なんて珍しくもなく、
ひどいのになると、生産数の二割が見本なんてことも。
(一割でも、見本として配りきるとは思えん)
・支払いの免除
印税とは、ヒットすれば莫大な金額になるが、ブームをすぎれば極端にすくなくなる。
たとえば「一年で、数回、カラオケで歌われた歌詞」の印税がはいったりする。
何十円だ。
これをいちいち振り込んでいたら、印税を管理している会社は振り込み手数料だけで大赤字だ。
そこで、一定金額に達しない場合、次期へ繰り越す。という契約もある。
気づくと10年近く振り込まれていない印税があったりする。
印税の計算書は、毎年80円を使って郵送されてくるので、
かえって早めに払ってしまった方が相手にとっても良いのではないかと思う。
そこで、過度な繰り越しはしないようにしてもらっている。
(会社のシステムで決まっていて、オルフェだけ変えるというのが通らない場合もある)
以上のように、よく見ないと、とんでもないことになる契約書だが、
無闇に怖がってもしかたない。
知り合いの作家は、海外版の契約書を「よく分からない」という理由で、サインしておかなかったために、海外版が発売されなかった。
(これには、余談があって、この作家が同じ出版社の別の作家の本に寄稿した原稿も、「この先生は海外が嫌いなんだ」と思われて、外されそうになった)
とにかく勉強。
それしかない。
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このブログ記事について
このページは、千葉智宏が2006年3月29日 00:33に書いたブログ記事です。
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