昨日のサインの話の補足。
仕事のスタッフが、記念の意味をこめて「本にサインをください」と言うのは、私は問題ないと思ってます。
それは、プロ同士の仕事の記念ですから。
私が問題としているのは、「プロがファンになってしまう」ことだけです。
今日は、仕事していてうれしかった話をしましょう。
※ある意味、これも業界人の特権の話です。
自分が熱意を込めてやった仕事が、人に認められるのは、うれしいモノです。
特にその仕事が、あまり目立つものではなく、ひっそり公開されたものなら、なおさらのこと。
実は、前の会社にいた時に、B社の模型情報の編集をしていました。
(私はライターの一人で、メインの編集は「エヴァを作ったアニメ会社の前身」が担当していました)
この時、私はSDの作例ページと、東映の情報ページの担当でした。
当時の東映作品には、「黒いバイク乗り(実写)」や、「驚き男(シールも人気)」、そして「星矢」がありました。
私は、「星矢」の大ファンでした。
※会社の黒田と一緒に同人誌まで作っていました。
アニメの「星矢」には、スチールセイントというオリジナルキャラが登場します。
彼らは、科学の力で生み出されたクロスを身にまとい、他のセイントたちと、共闘するという設定でした。
ですが、分子を砕く破壊力を持つセイントと、どうして対等に戦えるのか、その説明はありませんでした。
当時から設定マニアだった私は、個人的にその原理を考えてみました。
(詳しい内容が知りたい人は、当時の模型情報を探してみてください)
完成したものは、完全に趣味のものでしたが、編集部で披露したところ、大変好評で、「なんとか誌面に出せないか」という話になりました。
そこから、各所に掛け合い、なんとかこの設定をオフィシャルなモノとして模型情報に掲載することが出来ました。
(この時は、いろんな人の協力を得ました。ジャンプ作品で東映アニメですから、そのハードルがとてつもなく高いのは、業界の人なら理解してもらえると思います。
これは非難しているのではありません。彼らが、ブランドを守るプロだということです)
「星矢」は人気作品でしたが、アニメオリジナルのスチールセイントは、それほど人気がありませんでしたから、記事も注目されることはありませんでした。
ですが、その記事が掲載された年の模型の即売会イベントでのこと、
一般サークルの方が出した「星矢」の同人誌を手に取った私は、びっくりすることになりました。
なんと、模型情報の私の記事が、そのまま転載されていたのてす。
「奴らにこんなステキな設定があったのをキミは知ってるか!」
と、キャッチフレーズが付いてました。
これは、本当にうれしかったですね。
細かいことを言えば、版権無視のコピー行為なのですが、
「私の記事を気に入ってくれて、それを広めようとしている人がいる」
そこに感動しました。
この話には、さらに後日談があります。
つい先日、「スターゲイザー」の打ち合わせでのことです。
宇宙航行の技術を武器に転用する話をしていた所、突然スタッフの一人が
「スチールセイントって知ってますか? あのクロスはブラックホールを攻防に使ってるんですよ」
と、話しはじめたのです。
そう、それは私が模型情報で発表したスチールセイントの設定だったのです。
驚きました。
記事を書いてから十年以上がたっているのに、それを覚えていた人がいたとは。
本当にあの記事を書いて良かったと思いました。
単行本が売れたり,おもしろかったと言ってもらうのもうれしいですが、
小さな記事が評価されるのは、それとは違う、別格のうれしさがあるものです。
今にして思うと、「見た作品の設定を考える」というのは、今の「アストレイ」の仕事にも確実に生かされています。
「アストレイ」で発表した裏設定のほとんどは、森田さんや吉野さんが考えたモノですが、一部は私の方から「これは、こういうことなのでしょうか?」と提案し「それ採用」となったものもあるのです。
業界にいると、こんな幸せもあるという話でした。