業界人は、業界人に会える。
これは、あたり前のことだ。
中には、業界に入る前にファンだった先生に会えたりもする。
私の場合、永井豪先生の熱烈なファンだった。
まだ前の会社にいたころ、編集を担当していた雑誌がアニメ製作もしていて、
永井先生の「バイオレンスジャック」をアニメ化することになった。
そこで、インタビューの機会が訪れた。
正直、かなり緊張した。
だが、永井先生は、さすがはベテラン。インタビューにも慣れており、
不慣れな上に緊張していた私をリードするようにいろいろ語ってくれた。
(当時、先生はゴラクでジャックを連載中だった)
カメラを向ければ、ちゃんとポーズをとってくれる。
(なにも頼まなくても、ジャックナイフを振りかざすポーズをしてくれた)
つねに笑顔だ。
その時のインタビューは、当時の雑誌を見つければ、読むことが出来る。
ここでは、記事にはしなかった、こぼれ話をしよう。
私の前の会社は高田馬場にあった。
この駅前には「力士と裸の女性」がくるくる回る噴水が屋上に設置された「名物ラブホテル」がある(今もホテルはあるが、噴水は違うものになってる)。
会社から駅に行く途中,その前を通った私は、永井先生に遭遇した。
(中からで出てきたのではない)
びっくりした。
私は、声をかけることも出来ず、ただすれ違った。
このことを先生に「高田馬場で、お見かけしたことがあります」
とだけ伝えた。
先生は、にっこり微笑まれて、
「そういう時は、声をかけてくれていいんですよ」
と言ってくれた。
社交辞令だとは思うが、本当にいい人だ。
だが、さすがにラブホテル前では声はかけられません、先生。
蛇足
高田馬場では、楳図かずお先生もよくお見かけした。
楳図先生にも、声はかけられなかった。
派手な服を着て、踊りながら歩いていらっしゃるからだ。
永井先生の優しさに気をよくした私は、
軽い気持ちでサインをお願いしてしまった。
もちろん、永井先生はイヤな顔一つせずに、色紙にジャックを書いてくださった。
そして私に渡す時、
「あっ、ジャックを描いちゃったけど、他のキャラの方がよかったかな? 聞いてから描けばよかったね」
と言われた。
なんという、やさしさ。
もう先生の後ろに、後光が見えましたよ。
この時、私はサインをもらい、有頂天になった。
だが,今となっては、この時の行動を後悔している。
永井先生とは、仕事でお会いしたのだ。
その現場でファンとしての自分を持ち込むべきではなかった。
(インタビュー自体は、ファンとしての心理がうまく働き、
いろいろ聞くべきことを聞き出せたと思う)
この場をおかりして、謝りたい。
「永井先生、当時は失礼しました。
本当にすみません」
私は、これ以来、どんな業界人にも、サインをねだったことはない。
だだ、業界人に会えるのは楽しみにしている。
ファンとしてではなく、同業人として、「プロの話を聞ける」からだ。
業界で働いている人との話は、とても勉強になるのだ。
どうか、この業界を目指している人にも、その時が来たら
プロとしての姿勢を持つようにして欲しい。